名曲聴いて、何になる?

クラシックの名曲って、何の役に立つんだ?

思い出に浸るな! (1)

宇宙人の就職(続き)

「いや、おじいちゃんは若いヤツ見ててアド
バイスなんかしたくならないよ。ねえ」
息子がそう言い丘一郎はとっさに
(うん、うん、うん)
と赤ベこみたいにうなずきたかったが、それ
より早く孫が言った。

「あ、そんなこと、父さんが決めるの変だよ」
「決めてはいないサ。推測してるんだ」
「ほんとに? おじいちゃん」
「うん、実は苦手なんだよ。そういう……よ
ろずアドバイスみたいなのが、おれには」

「えー。そうなのか」
慶介は意外、というよりはかすかに傷ついた
ような顔つきで丘一郎を見、丘一郎はその視
線に耐えきれず
「き、着替えてくるわ。散歩で汗かいたし」
などと言い訳がましいことをいって自分の部
屋に引っ込んだ。



思い出に浸るな! (1)


自分の部屋で一人になっても丘一郎の胸のド
キドキはまだ収まらない。それは、役立たず
がひょんなことから役に立つことをさせられ
そうになって死ぬほど肝を冷やしたという情
けない興奮だが、

さっきの場面を思い返して、彼はこうも考え
た。急速に貧しくなっていく日本で、これか
ら職に就こうとする若者たちが、多少でも余
裕のある暮らしができそうな仕事を必死で求
める競争に……

というより、その息苦しく救いのない「競争
の気分を煽るビジネス」に乗せられて、自分
分の孫までああして、本人はまだ面白半分か
も知れないが、結局のところは踊らされてい
る!


この祖父の時代なら、志望の大学に入ってし
まいさえすれば、あとの四年弱は多いに遊ん
で、大人たちが眉をひそめる
(たとえば無軌道に乱れたセックス、なんと
言うものもやってみたいものよ)
と横着に決め込んでいれば良かった。

実際には遊びといってもマージャン、パチン
コでろくでもない暇つぶしをするだけのこと
であり、いざ女の子を前にしたら気の利いた
ことひのとつも言えず、

何のことはない、エロ本でオナニーするだけ
の空しい毎日が現実であっても、である。

丘一郎は、余裕をなくし果てしなくせき立て
られる一方の今の世の中から、自分がすっか
りズレてしまっているのを今更のように感じ
た。

が、それでも彼は自分の孫に
「こんな就活のDVDなんか、見なくていい
んだよ!」
と本気で言ってやりたい気分をどこかに持っ
ていた。


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